2013年2月1日金曜日

徳島・移動販売


「買い物難民」と商店をつなぐ移動スーパー「とくし丸」が徳島にお目見えして間もなく1年。買い手に「1品10円」の価格上乗せをしてもらうことで、当初の赤字はぐっと減った。販売車は5台に増え、徳島の試みは県外にも波及。新たなビジネスモデルが着実に育っている。

 11月中旬から走り始めたとくし丸5号車のドライバーは渡辺浩高さん(34)。徳島市国府町と名東町の3ルート(計約150軒)を受け持つ。早朝、提携先のスーパーで総菜や菓子、飲み物、生活雑貨など約300種類を積み込み、出発する。 

 特徴はルートの細かさ。200メートルほどしか離れていない場所でも停車する。渡辺さんは「広場のような場所にとめるのではなく大半は一軒一軒出向く。足が不自由な人もいるし、音楽を流しても冬は窓を閉めていたら聞こえない人も多い」と話す。1日30~35カ所回り、1カ所にかけるのは移動も含めて10分程度だ。 

 農林水産政策研究所によると、生鮮品販売店まで500メートル以上あり、車のない「買い物難民」は全国で910万人。県内の買い物難民は人口の9・2%の7万5千人でうち65歳以上は3万5千人と推計される。需要の対象人数を考えると、「すぐにでも10号車ぐらいまで走らせられると思っていた」ととくし丸社長の住友達也さん(55)。だが、道は平らではなかった。 

 「買い物難民と言っても、すごく困っている人も、ちょっと困っている人もいる」。おやつ一つ買う人もいれば、2、3日分の食料を買う人もいる。「ちょっと困っている人」をいくら開拓しても、売り上げ増にはつながらない。事業を始めた2月以降、本体のとくし丸は赤字が続いた。 

 そこで、「困っている人」をどう把握するか、知恵を絞った。各ルートの戸別訪問を徹底し、加えて導入したのが「+10円ルール」。買い手に1品につき10円上乗せして支払ってもらう。50円の商品は60円、500円は510円。2品なら20円の上乗せになる。 

 「買い手には負担だが、本当に困っている人はとくし丸を支えるために払ってくれる」。1台当たりの平均販売点数は1日200~250点。1日2千~2500円の利益が上乗せされ、販売担当ととくし丸が折半する仕組みが確立され、とくし丸の赤字幅はぐっと圧縮された。80代の女性は「タクシーで買い物に行くことを考えたら、50円や100円は安い。それより来てもらえなくなるほうが困る」と話す。 

 今、古株の販売車の売り上げは1日の目標6万円を超え、8万円台になることもある。3月には新たに6号車を走らせる予定だ。住友さんは「10台が走れば、赤字脱却が可能になる。今年は勝負の年」という。 

 次のとくし丸の課題は知名度。住友さんは「行政に補助金は求めない。ただ、地域をとくし丸が走っていることを知らせてほしい」。行政の広報がお年寄りの「安心感」につながるとみる。 

 始めたばかりの頃、徳島市内の独居の女性宅を訪問したが、2回続けて留守だった。たまったままの新聞受けを不審に思い民生委員に連絡すると、女性は亡くなっていたという。「早く見つけてもらってありがたいと感謝されたけれど、もし前回のぞいていれば、とも思った」と住友さん。 

 経済産業省の「買い物弱者応援マニュアル」には、各地の取り組みとして、行政や民生委員と協定を結び、高齢者の安否確認に役立てる例が紹介されている。販売だけでなく、高齢者宅を定期的に回り、地域コミュニティーを再生する役割もある――。そんなとくし丸を住友さんは「地域の見守り役でもある」と自負する。