2013年4月17日水曜日

私設図書館


岡山市中区山崎の住宅街に、私設の「山岳図書館」が完成した。ガイド本や登頂記録、山岳地図など約960冊の山登りに関する書籍や資料がずらり。立ち上げた中区の登山家、守屋益男さん(77)は「登山好きのための学びの場になれば」と話している。

 完成したのは「M山岳図書館」。Mは守屋さんの名前とマウンテンの頭文字から名付けた。同様の図書館は静岡県の「南アルプス山岳図書館」と、福岡県の「山の図書館」ぐらいしかないという。

 「(蔵書などを)埋もれたままにするより、山好きの人たちに活用してもらおう」と、守屋さんが一人で準備してきた。退職金などをつぎこみ、約2年前に自宅近くに2階建ての建物を建てた。しかし、1千点近い資料の目録作りなどに、今春まで時間がかかった。「やっとここまでこぎつけた。どの本もみんな喜んでますよ」

 守屋さんの登山歴は半世紀を超える。電力会社に勤めながら休日のほとんどを山で過ごしてきた。日本百名山はすべて制覇。モンブランやキリマンジャロなど世界の名峰も踏破した。1994年には登山隊の総隊長として中国・新疆ウイグル自治区のカシカール峰の世界初登頂に成功した。

 書棚には守屋さんがつづったり、人づてにもらったりした登頂報告書なども並ぶ。なかでも、カシカール登頂を計画していたころに登山家の田部井淳子さんから渡された報告書は思い入れのある一冊。「このおかげで登山ルートを見つけられた。未踏峰に挑む登山家にとって、先人の記録は何よりも貴重なんです」

2013年4月16日火曜日

ジャルダン・パルタジェ


パリの住宅地のところどころに、緑豊かな空き地がある。柵ごしにのぞくと、きれいに手入れされた野菜畑や果樹園があったり、雨宿りができそうな小屋があったり。パリ市が所有する土地を地域住民に委ねた公園で、「ジャルダン・パルタジェ(分かち合い公園)」と呼ばれている。

 東部の下町11区にパリ最古のジャルダン・パルタジェが現存していると聞き、早速訪ねてみた。車が行き交う大通りから石畳の細い歩道を入ると、かつては家具職人の工場だったという低層のアパートが並んでいた。東京の下町に残る長屋のように、軒先に緑が植えてある。目当ての公園の目印は、高さ5メートルほどのキウイの木。三方をアパートの壁に囲まれた100平方メートルほどの空間だが、小鳥のさえずりが響き、大都会のオアシスのようだった。

 「昨年のキウイの収穫量は37キロ。それを、今年は50キロに増やそうとは思わない。もっと世話がしやすく、おいしくすることを考える。私たちが望むのは量ではなく、質なんですよ」

 仕掛け人のひとり、俳優で歌手のティエリー・ラゲノーさん(52)がこれまでの歴史を説明してくれた。1999年、市が放置していた空き地の整備を思いつき、柵の錠を壊して隣人たちと無断で侵入。通りがかりの人々が捨てたゴミを拾い、雑草を刈り、キウイやイチジク、クワの木を植えた。そして翌年、住民の力で公園としてよみがえった空き地に地元の区長もご満悦。2001年の市長選で当選した社会党のベルトラン・ドラノエ氏は環境問題に熱心な市議らの意見を採り入れ、住民による市有地の「占拠」を禁じるのではなく、むしろ後押しする道を選んだ。

 ラゲノーさんは目を細める。「この公園は地域の公民館のような役割を果たすようになりました。キリスト教徒も、ユダヤ教徒も、イスラム教徒もイチジクの木の下に集まり、同じ感想をもらすのです。『住民同士のつながりが密になった』ってね」

 パリ市がジャルダン・パルタジェに本腰を入れたのは2003年。「緑の手」と名付けた約束を住民組織と交わし、推進することにした。手続きは簡単。まずは住民が関心を持った空き地を見つけ、市役所や区役所に運営計画を届け出る。行政側は周辺の治安や不動産登記上の問題がないか調べる。公園として適しているか見定めるため、土壌の検査をする。問題がなければ、市は水道口と土や道具を保管する小屋について財政支援し、運営はすべて住民組織に任せる。住民側は環境に配慮して整備を進め、最低週2回は公園を一般に開放しなければならない。

  ようやく寒さがゆるんできた3月下旬、同じ11区にある別のジャルダン・パルタジェを訪ねた。公立小学校が休みの水曜日だったこともあり、トランペットやサクソフォンを奏でるブラスバンドが子どもたちを引き連れてやってきた。手に握りしめた植物の種を野菜畑にまきながら大騒ぎ。春の訪れを告げる祭りのようだった。

 運営を担う住民組織のピエール・エレクシス・ユランさん(31)は「お金持ちはスキーに行くことができますが、余裕がない住民もここにくれば余暇を楽しむことができるのです。お年寄りはペタンク(鉄球を投げるスポーツ)を楽しみ、働き盛りの世代は日光浴で疲れをいやしています」と語った。

  欧州を覆う経済危機も出口が見えない。フランスの失業率も10%の大台を超え、さらに悪化する見通しだ。バカンス好きの人々も今年は「安近短」を選ぶ人が目立つ。

  環境政策を推進するファビエンヌ・ギブドー市助役は「危機が深まるにつれ、ジャルダン・パルタジェを開きたい、参加したいという要望が確実に増えています。飛行機や車でパリを離れずに家の近くで仲間や家族と自然を楽しむ。危機は皮肉にも市民の環境意識を刺激し、連帯感を高めるのに貢献しているのかもしれません」と語った。

 低所得者住宅が多い東部の20区に、実験的なジャルダン・パルタジェがある。その名は「パサージュ56」。一帯は麻薬に絡む犯罪が横行し、治安が悪いことでも知られていた。2008年、非営利の建築家集団が立ち上がり、アパートとアパートの間のゴミ捨て場と化していた空き地を公園に衣替えした。併設した小屋では、ミニコンサートや討論会を企画。有機野菜なども販売している。2年前からは地元の住民が自主管理組織を立ち上げ、運営している。

 建築家集団のメンバーで公園の設計に携わったコンストンタン・ペトクさん(55)は言う。「この公園は参加型民主主義の実験場でもあるのです。住民が自分たちの手で公共空間をつくる担い手になるという自覚を持つことができれば、荒廃した町を再生することができるのです」

  市内のジャルダン・パルタジェはこの10年間で計65カ所に増えた。その大半が庶民的な東部に集中しているが、今年の秋ごろ、官庁や高級住宅が立ち並ぶ7区にも第1号ができる。きらびやかなブティックやしゃれたレストランが並ぶ「華の都」の裏通りに、分かち合いのこころが今も息づいている。

2013年4月11日木曜日

「ふくおか子育てマイスター」


核家族化や女性の就労が進み、より地域のサポートが求められる子育ての場で高齢者が活躍している。担い手になってもらおうと、60歳以上を対象に県が2012年度から始めた「ふくおか子育てマイスター」の研修を多くの人が希望するなど、意欲も高い。

 50平方メートルほどの室内で、生後9カ月から4歳の5人が、おもちゃで遊んだり、弁当を食べたりしていた。

 筑紫野市シルバー人材センターが運営する託児施設「シルバーほほえみ」。子どもの世話をしていたのは3人の女性で、壁には知事名のマイスター認定書10人分がはられていた。

 原則、平日の午前9時から午後4時まで、生後3カ月ぐらいから就学前の乳幼児を一時的に預かる場だ。ひとり1時間で550円。利用に理由や条件は求めず、通院や買い物、きょうだいの学校の用事など、その日の都合で事前に予約して自由に使える。

 昨年7月にセンターに会員登録した日野ゆり子さん(63)は、自分の子がまだ小さい時から働き「十分に育児に関われなかった」との思いから、この仕事を選んだ。2カ月後には、第1期のマイスター研修を受講。「発達段階に合わせた子育てが学べ、勉強になった。子どもが成長していく姿を間近で見られるのはうれしいですね」と話す。

 この施設がオープンしたのは05年9月。センターでは、従事する会員に育児ヘルパーの講習を課しているが、より安心して預けてもらえるようにと昨年9月から始まった県の制度も利用することにした。

 マイスターの認定には、「健康と安全」「コミュニケーションの方法」など全7日・30時間の受講が必要だ。2月に福岡市であった第2期の研修会には、定員の50人を上回る83人の申し込みがあり、抽選で55人に絞った。ある日の講義では、やけどや誤飲・誤嚥(ごえん)、食物アレルギーへの対処法などを学び、救急車の呼び方を練習していた。

 県子育て支援課によると、マイスター認定者は3月末で277人。すでに公民館など地域で子育てボランティアをしている人が多く、今の親の姿や育児の現状を知って「世代間ギャップ」を埋め、子育て世代を支えたいという熱心な参加者が目立つという。

 高齢者に特化した、こうした制度は都道府県レベルでは初めてと同課。14年度までの3カ年事業で、計1200人のマイスターを誕生させる方針だ。

2013年4月10日水曜日

耕作放棄地を仲介


耕作放棄地が多い町田市北部3カ所の計約1・5ヘクタールを3事業者が今月から借り受け、農業生産を始めた。市が2011年に始めた農地仲介事業を活用した。自治体のあっせんで農業生産法人やNPO法人が農地を借りるのは都内で初めて。

 市の仲介で農業に参入したのは、農業生産法人「和郷」(千葉県香取市)と、障害者雇用の確保を目的としたキユーピーの特例子会社「キユーピーあい」(町田市)、農業の担い手育成などに取り組むNPO法人「たがやす」(同市)。

 「和郷」は、同市小野路町の0・57ヘクタールを借りて主にサツマイモを年間約14トン生産。スイーツに加工し、東京駅の売店で売る計画だ。「キユーピーあい」は上小山田町の0・5ヘクタールで数人の障害者を雇い、野菜などを作ってキユーピー本社の社員食堂に提供する。「たがやす」は小野路町の0・4ヘクタールで果樹やイモなどを育て、子どもたちの農業体験の場にする。いずれも0・1ヘクタール当たり年1万円の借地料を地権者に支払う。

 多摩ニュータウンに隣接する市の北部は一時、都市再生機構(UR)が取得したが、採算面などから開発されないまま大部分を市が買い取った。現在は山林や遊休農地が広がっている。

 土地が荒れるのを防ごうと、市は11年5月から、地権者と借り手を結びつけるあっせん事業を始めた。これまでに地権者から委任を受けた農地や市有地計13・5ヘクタールのうち、今回の3事業者を含めて計10・6ヘクタールを借り手に仲介してきた。

 市の担当者は「家族経営の農家だけでなく、競争力が強かったり、社会貢献を目的としたりといった多様な担い手が参加したのが大きい」と話す。今後も法人の参入に向けて働きかけていくという。

2013年4月4日木曜日

女性の起業を支援


長崎で茶の貿易商として成功し、幕末の志士を支えたとされる大浦お慶(1828~84年)。女性実業家の先駆けだったお慶に続けと、県が起業をめざす女性を支援する「大浦お慶プロジェクト」を始めた。経済再生に女性の力が求められる今、事業を本格化させている。

■幕末、ビジネスウーマンの先駆け

 先月14日、長崎市立図書館のホールでキャリアフェスティバルがあった。趣味を仕事に変える方法や起業の計画づくりを助言するセミナー、県や日本政策金融公庫による相談受け付け、起業した女性の出店ブース。女性たちがあふれた。

 アパレル店員を辞め、夏からカナダに語学留学するという長崎市の女性(32)は、帰国後の仕事について考えたいと今回訪れた。「長崎で女性が成功するのは難しい。男性社会の雰囲気が残っている」と話す。

 セミナーに参加した峰松弘子さん(55)は3年前に小学校教員を辞め、障害や病気がある人の就労を支援する団体を昨年1月に立ち上げた。「大きな看板のない私が再出発するには支援してくれる人が必要です」

 イベントを主催したのは、女性がビジネスの情報交換をする会「B塾」(長崎市)。3年前に活動を始めた。昨年6月、大浦お慶プロジェクトの第1弾として、女性の力で地域を活性化する企画の募集に応じて採用され、県から100万円の助成を受けた。

 B塾の小山真結美会長(42)は「県にチャンスをもらった。現場の活動が軌道に乗るまで、長い目で見守ってほしい」と話す。

 大浦お慶プロジェクトは2010年、県内で活躍する10人の女性「お慶メンバー」の会議から始まった。メンバーはコピーライター、タクシー会社役員、スーパー経営、旅館女将(おかみ)ら。会議で出た提案を、県が昨年度から事業化している。

 今年1月、中小企業診断士が起業の助言をする事業を始めた。4月3日現在で、美容、高齢者や障害者支援などの起業を目指す女性32人から依頼があった。

 3月には、プロジェクトのホームページ(http://www.okei-net.jp/)を立ち上げ、会員登録(無料)をすればお慶メンバーにメールで質問できる窓口、起業や再就職、資格取得や子育て支援など働くために必要な機関の案内を載せた。

 今夏には女子大学生が将来の職業や働き方を考える事業を計画中だ。県内で活躍する色々な職種の女性を取材し、交流してもらう。

 県男女共同参画室の森玲子室長は「地域経済を元気にするには、働きたいのに働けていない女性の活用が不可欠。女性が外に打って出られるよう、県でサポートしたい」と話している。

     ◇

 〈大浦お慶〉(1828~84) 江戸時代末期に長崎の油問屋「大浦屋」に生まれ、佐賀・嬉野などの茶の貿易で富を築き、坂本龍馬らを経済的に支援した。亡くなる直前には茶の輸出の功績が認められ、明治政府から褒賞を与えられた。

2013年4月2日火曜日

武雄市図書館

レンタル大手「ツタヤ」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が、指定管理者として運営にあたる武雄市図書館がリニューアルオープンした1日、年度初めの月曜日にもかかわらず、閉館の午後9時までに5517人が訪れ、雰囲気を楽しんだ。一方、公共図書館の枠を越えたスタイルに戸惑う声も聞かれた。

 樋渡啓祐市長らがテープカットした後、近くの御船が丘小学校の児童たち約30人がカウントダウンをして午前9時に開館した。

 館内には自動貸し出し機を2カ所に分け、計6台配置した。レンタルや本の購入の支払いにも使える。1日1回だけTポイントが3ポイント(3円)付くため、利用者が多かったが、タッチパネル式で最初はわかりづらいため、係員が操作方法を丁寧に説明していた。

 本の検索機も計30台配置してあり、目当ての本を検索すると、図書が置かれた位置などのコピーが出てくる。開架図書が約20万冊あり、探しあぐねて検索機を使う人の姿も目立った。

 昼食時は、スターバックス席や外のテラスでコーヒーやサンドイッチなどの軽食をとったり、本をめくったりする人でにぎわった。

 武雄市武雄町の専門学校生、坂本好史(たかふみ)さん(23)は「どのへんが販売で、どこから図書スペースか、少しわかりづらいけど、いい図書館になったと思う」。

 近くの鹿島市の図書館で司書をしている女性は、前例のない図書館を勉強したいと訪れたが、「スタバがあったりして若者にはいいかもしれないけど、公共じゃない。特に2階はお年寄りは通りづらい」。

 武雄市は、CCCへの管理委託のメリットの一つに経費削減を挙げる。

 5年の指定管理期間で、CCCへの委託料は年間1億1千万円。市教委によると、これまでの運営費は歴史資料館を含めて約1億4600万円。資料館の経費2800万円を差し引くと、年間約800万円の削減につながり、CCCから賃料が年間600万円入るため、運営経費は約1割削減できるという。

 ただ、市は改修費に4億5千万円をかけ、CCCも約3億円を負担した。民間企業だけに赤字経営になったときの撤退のリスクが伴う。実際、これまでに指定管理者として図書館運営に参入している民間企業は「企業価値の向上につながるので取り組んでいるが、利益は少ない」と話す。

 CCCは本などの売り上げやレンタル料で人件費を吸収するとしているが、物販をしている場所が図書館内にあることに著作権法違反との指摘も出ている。

 著作権法に詳しい福井健策弁護士は「少額とは言え営利性が生まれれば、違法の可能性はある。実際の運営次第だろう」と話す。

 3月の内覧会に出席した、書店「丸善」会長で、全国約180館で指定管理者となっている図書館流通センターの石井昭会長も「図書館は地域の大事な教育施設という前提は動かないが、物販で利用者のサービス向上にはつながる面はある。大事なのはやりようだ」と話した。