2011年11月9日水曜日

保育所の面積、ばらつく解釈 11県市で最低基準下回る


認可保育所の面積を定めた最低基準が、11の県や市で満たされていないことが朝日新聞社の調べでわかった。基準を定めた厚生労働省令があいまいだったためで、自治体には不満の声がくすぶっている。

■省令あいまい、最大3倍の格差

 厚労省は0、1歳児1人あたりの保育室面積の最低基準を「はいはい(ほふく)する前は1.65平方メートル以上」「はいはいを始めた後は3.3平方メートル以上」と決め、省令で定めている。
 朝日新聞社は、保育所の認可権限を持つ47都道府県と19政令指定都市に対し、最低基準を満たしているかアンケートを実施、9月末までに回答を得た。
 アンケート結果によると、省令の解釈が自治体によって分かれ、全国で統一されているはずの最低基準にばらつきが出ていた。最低基準を満たしていない自治体は11にのぼった。
 一方、他の自治体は、おおむね厚労省の解釈通り、0歳児がはいはいすると見込んで0、1歳児の最低基準を3.3平方メートル以上と定めていた。このうち仙台市や浜松市など10自治体は、厚労省基準に独自に上乗せし、0歳児1人あたり「5平方メートル以上」か「4.95平方メートル以上」に。最低基準に、最大3倍の格差があったことになる。
 面積の最低基準は、終戦直後の1948年に救貧対策として定められたまま、一度も見直されていない。あいまいな省令ができた経緯について、同省保育課は「わからない」と話す。自治体の解釈のばらつきが保護者の訴えをきっかけに判明、同省は10月末、最低基準の徹底を求める通知を自治体に出した。
 保育室面積の最低基準をめぐっては、「現状の『詰め込み』で保育の質が保てるのか」との意見の一方、「待機児解消のため基準を緩和すべきだ」との声もあり、議論が続いてきた。待機児童が多く土地の取得がしにくい全国35市区では、来年度から3年間に限って緩和が認められる。

■定員変更「すぐには無理」

 なぜ、こんなことが起きたのか。自治体からは「最低基準を定めた省令がわかりにくい」「いずれ皆、はいはいするようになるのだから、最初から3.3平方メートルと書けばいいのに」と怒りの声が上がる。
 待機児童数が1275人で全国ワースト(今年4月1日現在)の名古屋市は、はいはいする、しないにかかわらず、0、1歳児について「1.65平方メートル」でも認可してきた。省令に「(0、1歳児は)乳児室、またはほふく室を設ける」とあるため、「設けるのは乳児室だけでもいい」と解釈していたためだ。
 厚労省は、基準を満たしていない保育所に、定員の調整や部屋割りの変更を求めている。しかし、同市の担当者は「待機児童が多いなか、すぐに対処できる問題ではない。苦慮している、に尽きる」と嘆く。来年度の募集定員の見直しが必要か検討する。
 待機児童数ワースト11位の神戸市は、0歳児については厚労省基準に上乗せして「5平方メートル」としてきたが、1歳児は「1.65平方メートル」で認可。来春に定員50人の保育所が2カ所、60人の保育所が1カ所開設される予定だが、これらの施設もすべて1歳児は「1.65平方メートル」で認可。「工事が進行中で、今さら定員変更は無理」。対応策もこれから考えるという。
 「寝耳に水。二転、三転するのはどういうことか」と驚くのは岡山市。最低基準について98年に国に問い合わせたところ、「1.65で差し支えない」と回答された記録が残ると話す。「ほふくする、しないを考慮するようにとの説明はなかった」
 秋田県は、「はいはいの時期をチェックするのが難しい」として年齢で区切ってきた。大半の保育所は広めに造っているが、「定員を減らせば保育所経営にも影響する。経営者や保育団体に納得してもらえるだろうか」と悩む。

■最低基準を満たしていない自治体

・1歳児について、必要とされる面積の半分の「1.65平方メートル以上」でも認可

 愛知県、名古屋市、奈良県、神戸市、岡山市、広島市、大分県、沖縄県

・0歳児は「1.65平方メートル以上」、1歳児は「3.3平方メートル以上」。動き回れるかどうかではなく、年齢で区切った

 秋田県、長崎県、熊本県

    ◇

 〈最低基準を定めた厚生労働省令〉 省令は、「(2歳未満児を入所させる保育所は)乳児室、またはほふく室を設けること」「乳児室の面積は1人あたり1.65平方メートル以上、ほふく室の面積は3.3平方メートル以上」としている。1人あたりの最低基準がほふくをする、しないで異なるとは明記されていない。

 今回の通知は、0、1歳児について「ほふくをする前は1人あたり1.65平方メートル以上、ほふくを始めた時点から同3.3平方メートル以上」と基準を明確にしている。(朝日新聞11月9日)

〈最低基準を定めた厚生労働省令〉
第三十二条 保育所の設備の基準は、次のとおりとする。
一 乳児又は満二歳に満たない幼児を入所させる保育所には、乳児室又はほふく室、医務室、調理室及び便所を設けること。
二 乳児室の面積は、乳児又は前号の幼児一人につき一・六五平方メートル以上であること。
三 ほふく室の面積は、乳児又は第一号の幼児一人につき三・三平方メートル以上であること。
四 乳児室又はほふく室には、保育に必要な用具を備えること。
五 満二歳以上の幼児を入所させる保育所には、保育室又は遊戯室、屋外遊戯場(保育所の付近にある屋外遊戯場に代わるべき場所を含む。以下同じ。)、調理室及び便所を設けること。
六 保育室又は遊戯室の面積は、前号の幼児一人につき一・九八平方メートル以上、屋外遊戯場の面積は、前号の幼児一人につき三・三平方メートル以上であること。
七 保育室又は遊戯室には、保育に必要な用具を備えること。

今回の通知は
② 第32条第1号から第3号における、0歳児及び1歳児の居室面積基準については、子どもの発達段階に応じて乳児室又はほふく室を設けることを求める趣旨である。具体的には、年齢によらず、子どもが自らの意思で動き回る前の発達段階においては乳児室の1人当たり1.65㎡という基準が、子どもが自らの意思でほふくにより動き回ることができる発達段階に至った時点でほふく室の1人当たり3.3㎡という基準が、それぞれ適用となるものである。各自治体におかれては、同趣旨を踏まえ、条例制定を行っていただくようご留意いただきたい。