2014年3月4日火曜日

市民共同発電所


市民が少しずつ出資し、電気を作って売る「市民共同発電所」。県内でも太陽光発電の計画が相次いで動き出している。原発再稼働に向けた手続きが始まる中、「再生可能エネルギーへの転換には、地道に発電量を増やすしかない」と、旗振り役は出資を呼びかける。

 昨秋から生駒市に「市民エネルギー生駒」、奈良市に「地域未来エネルギー奈良」と二つの一般社団法人ができた。どちらも環境問題に取り組んできた市民が中心になり、それぞれ共同発電所の準備を進める。

 2団体が進める事業は①信託会社を通じて1口10万円で出資を募り、②1700万円/1800万円かけて公共施設や協力企業の屋根に約50キロワットのソーラーパネルを載せ、③関西電力に売電、④15年/20年かけて出資者に返す――という仕組み。自宅で太陽光発電ができない人も貢献でき、福島第一原発の事故後、各地で広がっている。

 追い風になったのが、2012年7月に始まった固定価格買い取り制度。再生可能エネルギーの電気を高値で買い支えるもので、一定の配当をつけて出資者に返済できるようになった。順調に発電できれば見返りがあるため、寄付よりも資金を集めやすい。

 ■「脱原発へ道」奈良の清水さん

 「どれだけ脱原発を主張しても、再生可能エネルギーを生み出さねば世の中は変わらない。福島の事故を過去のことにしてはならない」

 清水順子(よりこ)さん(55)は、そんな焦りにも似た思いにかられ、「地域未来エネルギー奈良」をつくった。

 実は、これまでにも仲間と共同発電所の取り組みをしてきた。寄付を募り、奈良市や大和郡山市の保育所、老人ホームなど計4カ所に10~20キロワットのパネルを載せた。ただ、今回のように見返りもある出資型と比べ、寄付では集められる金額は限られる。

 原発事故後、寄付頼みの活動に限界を感じた清水さんは、県や市町村、企業・団体の担当者に呼びかけて低炭素の地域づくりを考える「戦略会議」を始めた。出資型の共同発電所は、会議で提案されたアイデアの一つだ。1号機の設置場所には市民生活協同組合ならコープが協力を申し出た。

 5日午後1時半から、奈良市恋の窪1丁目のならコープで説明会を開く。問い合わせは事務局(0742・34・8566)へ。

 ■「経験生かす」生駒の楠さん

 「市民エネルギー生駒」は2月末、1号機の出資を締め切った。生駒市が屋根の提供に協力、1号機は住宅街にある市の施設「エコパーク21」に設置する。

 理事長の楠正志(ただし)さん(62)は2年前まで、大手メーカーで営業や経営企画に携わった。定年後、官民をあげてまちづくりに取り組む組織に参加。エネルギー部門の話し合いの中から、市民共同発電所の構想が生まれた。

 大勢の意見の集約、資料づくり、プレゼンテーション、市との交渉……。「長年の会社勤めで培ったノウハウを、今は地域のために生かすことができている」と手応えを感じている。

 今後、2号機以降の設置や、バイオマス、小水力発電なども模索する方針だ。

 大企業が進めるメガソーラーとは違う意義を、全国民に事業への参加や寄付を呼びかけた聖武天皇の大仏建立になぞらえる。「一人ひとりの力は小さいが、皆が『自分たちの発電所だ』と誇れることが大事。未来の子どもたちに住みやすい地球をつくろうとの熱意がこもった施設になる」