2012年5月25日金曜日

通学路をより安全なものにする

2006年9月に保育園児らの列に脇見運転の車が突っ込み、21人が死傷した埼玉県川口市。市の北西部、芝地区に入る生活道路には、あちこちに30キロの制限速度を示す標識や標示がある。

幹線道路に囲まれたこの地区は、住宅街を走る生活道路が小中学生の通学路であると同時に、車の抜け道にもなってきた。歩道のない道路も多く、通学中や遊びに行く子どものすぐ横を車が通る。事故が起きたのもこのような生活道路だった。速度規制はなく、車は時速50~55キロで走っていたとされる。

全国の交通事故発生件数は、01年からの10年間で23%減っているのに対し、幅5.5メートル未満の生活道路での事故は8%しか減っていない。

市は事故後、生活道路の速度規制に力を入れた。県警や住民と話し合いを重ね、昨年3月から芝地区など2地区と、2地区以外の計76路線の生活道路で、制限速度を30キロにする規制を始めた。

標識だけでなく、実際にスピードを出しにくくする仕組みも採り入れた。車道に自転車専用レーンを作ったり、中央線を消して路側帯を広げたりして、人は歩きやすく、車は走りにくくした。路側帯に緑の線を引き、歩く場所を明示しているところも多い。

効果ははっきりと表れた。規制の前後6カ月の事故の件数を比べると、芝地区では17%減った。年中の園児がいる女性(42)は「車のスピードがゆっくりになった。今後、子どもが1人で歩くようになっても安心」と話す。今年3月からは新たに5地区、81路線が加わり、別の地区でも準備が進む。

埼玉大大学院の久保田尚教授(都市交通計画)は、生活道路は地域の人に重要な道路であるため、通行止めなどの抜本的な対策がとりにくいと指摘。「これまでは車にとっての利便性を重視しがちだった。歩行者の安全にバランスを移せば、新たな対策が見えてくる」と話す。

■親子で歩き、危険な場所点検

子どもたちの交通安全への意識を高める工夫も各地でみられる。

広島県庄原市の板橋小学校の児童が22日、昨年作った通学路の安全マップを書き換えた。通学班ごとの地図に道路などの写真をはりながら、「車の通りが多く、スピードも出ている キケン!」と気づいたことを書いていく。

子どもたちは10日ほど前、保護者と通学路を歩き、危険な場所を点検した。「親子で歩くことで、それぞれの目線で意識して見ることができる」と日雨孫(ひうぞん)厚子校長。

防犯への意識づけの意味もこめ、全国約9割の小学校が取り組む安全マップ。1997年度から大阪府の小学校でマップ作りを支援する東北工業大の小川和久教授(交通心理学)は「マップを作っても、実際の安全行動にどう移すかが課題」という。事前に調べた通学路の危険性を映像にしてマップ作りの時に見せたり、別の交通安全授業と日程を組み合わせたりして、より効果的な方法を模索する。

埼玉県越谷市の大袋中学校の今西昭博教諭は2年前、交通安全の授業にiPadを使った。班ごとに配ったiPadに通学路を映し、予想される事故を議論し書き出させた。次に、道幅いっぱいに広がって歩きクラクションを鳴らされたり、自転車に乗っていて歩行者とぶつかったりする生徒の映像を流した。いずれも生徒が演じたものだ。

「知っている場所をテーマに視覚に訴えると、生徒の食いつきが違った。自分たちの行動が、事故を誘発する例もあることに気づいてほしかった」と今西教諭は話す。

事故は歩いている時だけに限らない。東京都荒川区は02年、自転車の免許制度を全国で初めて導入した。交通ルールの講義と実技講習を受けた小学4年生以上に写真入りの免許証を発行する。02年に934件だった自転車事故は、昨年502件に減った。

NPO法人「子どもの危険回避研究所」の横矢真理所長は、ハード面とソフト面の対策に「ハート」を加え、「人の目で何重にも補強してほしい」と話す。

「ハート」とは、関心を持って見守る目のこと。大勢で何かを始めるのは無理でも、まずは子どもの登下校の様子を実際に見てほしいという。「子どもは思いがけない動きをすることを知るだけで、大人の行動も変わります」(中林加南子)