2012年9月17日月曜日

放送倫理・番組向上機構(BPO)



お笑い芸人の母親の生活保護受給をめぐる複数のテレビ番組について「誤解や偏見を助長し、弱者を追い詰めた」として、弁護士らでつくる「生活保護問題対策全国会議」が放送倫理・番組向上機構(BPO)に放送内容を審議するよう要請した。テレビ報道の危うさが見え隠れするこの問題はBPOの放送倫理検証委員会で14日報告され、今後の議論が注目される。

■弁護士ら「不公正・不正確」

 問題になったのは、お笑いコンビ「次長課長」の河本準一さんの母親が生活保護を受けていたことをめぐる報道。扶養は保護の要件ではなく、今回の例は不正受給にはあたらない。にもかかわらず、河本さんが高収入を得るようになった後も生活保護を受けていた点に批判が集まり、テレビでも制度や受給者が連日のように取り上げられた。

 全国会議が問題視しているのは、フジテレビ、テレビ朝日、TBSの3局6番組。データの誤りに加え、「過剰な演出や一方的な報道」「裏付け取材がない私的な証言をそのまま報道」「コメンテーターの発言を通して、不公正、不正確な内容を報道」という3点がポイントだという。

 視聴者の投稿内容をそのまま読み上げたり、受給者が飲酒やパチンコをしていることを「不正受給」のテーマの中で取り上げたり。生活保護制度は憲法25条の生存権を具体化するものだが、出演者の作家が「生活保護を受けることが基本的に恥ずかしいことだという原点を忘れている」と発言したのを補足や訂正なく放送した場面もあった。

 全国会議メンバーで元日本テレビディレクターの水島宏明・法政大教授は「一つひとつが決定的な間違いでなくても、編集や見せ方の手法で全体として偏りが生まれてしまう。テレビがどうあるべきか、立ち止まって考えてもらいたい」と訴える。

■制作現場「指摘は一方的」

 これに対し、局側はいずれも「現段階ではコメントできない」との姿勢を示す。現場の受け止め方は「視聴率をとるため世間に迎合してしまう面はある」「制度の意義を否定する意図はなく、彼らの指摘こそ一方的では」と様々だ。

 別の情報番組を担当していたあるプロデューサーは「番組作りでは専門性よりも反射能力が試される」と説明する。視聴者をつなぎとめようと目を引くテロップや明快なコメントを多用し、「わかりやすさ」の追求が続く。今回の問題と直結はしなくても、不正受給の問題は関心が高く、取り上げやすい。「情報は消費され、なかなか後ろを振り向くひまもない。テレビに限らずメディア全体の問題だとは思うけど」

 報道が過熱したのはなぜか。40年近く生活保護の問題に携わってきた全国会議の尾藤広喜弁護士は「社会全体に貧困が広がる中、生活保護を受けていない低所得者の不満がたまっている。視聴者も一面的な報道を受け入れやすくなっているのではないか」と指摘している。(佐藤美鈴)

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 〈評論家の宇野常寛さんの話〉 特撮ヒーロー番組の怪人が人を殺せなくなるくらい表現への規制を強める一方で、ワイドショーで社会問題の提起という大義名分のもと個人をやり玉にあげる快楽を視聴者に提示するテレビ局の姿勢には疑問を禁じ得ない。バランス感覚がまひし、迷走しているのではないか。マスメディアへの信頼が低下した現在だからこそ、その倫理について考え直す時期に来ている。