2012年11月2日金曜日

「空き家条例」。


管理されず、倒壊の恐れがある空き家への措置を定めた「空き家条例」。全国の市町村で制定が進むなか、長野県内では初めて、飯山市と小谷村が先月から施行し、危険かどうかの判定も始まっている。飯田市など空き家の実態調査を始める自治体も出ている。なぜこうした対応が必要なのか。

 飯山市東部の農村部、針田集落。1、2メートルの積雪があった1月半ば、明け方に「どーん」と大きな音がした。数年前に高齢の住人が引っ越して空き家になっていた古い木造住宅が、雪の重みで潰れた音だった。 

 春、雪が解けると、ぺしゃんこになった家が現れた。屋根のトタンが強風にあおられ、近所に飛んだ。 

 「このままでは危ない」。区長の小林和男さん(57)は別の地区に住む、家の所有者に片付けを依頼した。以前、住んでいた高齢者の親族だ。だが、家は潰れた状態のまま、再び冬を迎えようとしている。 

 「地区の中心部なので景観上も何とかしたいが、手を出す訳にいかなくて」と小林さん。「飯山市空き家等の適正管理に関する条例」に沿って対処してもらうため、市に連絡しようと考えている。 

 過疎化や高齢化が進む市内では、住人が亡くなったり転居したりした後、遠方の親族らが相続し、手入れされない家が増えている。 

 これまで、荒れて危険な状態になり、周りの住民が相談しても、市は、持ち主に連絡を取るよう助言するのが精いっぱいだった。 

 しかし、今年1、2月の大雪を機に、条例制定の機運が高まった。針田地区のほかでも空き家が数軒、倒壊。建材が道路に散らばって、一時通行止めになった所もあった。3月飯山市議会で議員からも条例制定を促された。 

 6月の市の調査では、市内の空き家は350戸。89戸は倒壊の危険があった。うち4戸は所有者不明、19戸は所有者と連絡がとれず、44戸は連絡しても対応してもらえなかった。 

 しかし、先月1日の条例施行後は、市民から12件の情報が寄せられ、市は現地も調査して6件を「危険な空き家」と認定。所有者を確認中だ。 

 飯山市の担当課の出沢俊明課長は「住民の生命や財産に危害を与えるのが一番困る。条例ができたので今後は直接、問題解決にあたることができる」と効果を話す。 

■「財産権の制限」苦心 

 「空き家の荒廃を防ぎ、地域の安全・安心を確保する」ことを目的とする飯山市の条例は、どのような内容なのか。 

 危険な空き家などの情報が住民から寄せられたら、市は登記簿などで持ち主を調べ、外観から状態を調査。副市長や課長ら10人の判定委員会で、危険かどうかを判断する。 

 今にも倒れそう、など差し迫っている場合は、雪下ろしや補強などの「緊急安全措置」をとる。それ以外で、危険と認定されると、まず補修や取り壊しなどの改善措置を、所有者に助言・指導する。 

 改善されないと、(1)勧告(2)命令(3)所有者の住所や氏名の公表、と徐々に強い対応をとり、最終的には取り壊しなどの「行政代執行」を行う。緊急措置や代執行にかかった費用は、所有者に請求する。 

 苦心したのは、空き家所有者の「財産権の制限」と、周りの住民の安全・安心のバランスだ。 

 勧告や代執行などの措置は、基本的に所有者が誰か、判明していることが前提だ。「特に代執行は個人の財産権を制限することなので、法律の専門家と相談しながら進めたい」と出沢課長はいう。 

 雪による倒壊防止をはじめ、防犯、景観保全などの目的で空き家条例を設ける地方自治体はここ2年ほどで全国的に急増し、7月時点で73以上(国土交通省調べ)。秋田県大仙市では、条例に基づき空き家を解体する行政代執行があった。